狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのLⅦ


一人掛けの椅子を運び、キュリオの机の傍に並べたアオイ。その手から伝わる椅子の重みやぬくもりが長い時の流れを感じさせてくれる。


(このベルベッドの生地のおかげで真新しい感じがするけれど、椅子の縁取りを見ればわかるわ。上質な木の味わいが色濃く出ているもの…)


長年、大切にされてきたものをうっかり傷つけてしまわぬよう、最新の注意を払いながらアオイはゆっくり腰かけた。

弾力性のあるクッションが肌を押し返す感触がとても心地良い。それでいて、木材の色合いとあたたかみが見事に調和した超一級品である事は間違いない。


嬉しそうに腰掛けたアオイがキュリオへと視線を向ける間、彼は不思議そうな眼差しで彼女を見つめていた。


「…変なやつだなお前。椅子に感動してどうする」


「あ、ごめんなさい。良い椅子だなって思いまして…」


「だったらしばらくそれと戯れていろ。私は忙しいんだ」


愛想笑いもなく、書物へと視線を戻したキュリオ。


「もう大丈夫ですっ!お待たせいたしました!」


慌てて姿勢をただし、机に置いた絵本を手に取るアオイ。


すると…


「…少しの間だけだぞ」


ふぅ、とため息をついた幼いキュリオは意外にもあっさりと広げていた書物を閉じてくれた。


(お父様…)


口の割には優しいキュリオ。その態度はアオイがセシエルの"いい人"だからなのか、それともただ単に彼が童話(フェアリーテイル)へと興味を示しただけか…


目を閉じながら背もたれに寄りかかる彼に、未来のキュリオの面影を見たアオイ。


(姿なんて関係ない…やっぱり優しい、あのお父様だわ…)


そして目を閉じていても、彼の注意がこちらへと向いているのがわかる。


その証に…


穏やかな風に髪を揺らし、口元に笑みを浮かべた幼いキュリオ。やがて薄く開いた瞼(まぶた)の奥で、悠久の空を映した青い瞳が少女を捉えた。



「…どうした?読めないのなら私が読んでやっても良いぞ」



スッと伸ばされた彼の手は…かつて幼いアオイを保護し、深い愛で包んでいたキュリオそのものだった―――。



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