狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのLXXⅣ
『冷たくて気持ちがいいね』
キュリオの声を浴びながら、おぼつかない足取りで腰掛け部分をペタペタ歩いている幼いアオイ。彼女はあまりにも小さいため、その多くを父親であるキュリオの腕の中で過ごしていた。
そしてここ、東屋にて久しぶりに彼の手を離れ、自分の足で歩いた石の上はとても不思議な感じがした。
この時のアオイはまだ、絨毯や石の区別はついていない。毛足の長いふわふわな絨毯の上で転んでも痛くはないが、この上ではなんとなく…なんとなく気をつけなければいけない予感だけがしていた。
それは恐怖ではなく、不安が大部分を占めている。
『……』
そしてアオイの視線がキュリオの足元へ向くと、いくぶん高低差があるのがわかった。しかし…
『…っ…』
中庭からやってきた真っ白な蝶が目の前を通り過ぎ、アオイの好奇心は先程感じた警告を簡単に無視してしまった。
喜びの声を上げた彼女がペタペタと蝶を追いかけ数歩すすむと…
『さぁアオイ、冒険はそこまでだ』
大きな手がひょいとアオイを抱きしめる。キュリオは彼女の体を抱えながら、自分の腿の上へとアオイを立たせた。
今度は硬く冷たい大理石(マーブル)とは違い、柔らかな絹の感触とキュリオのぬくもりを足裏に感じる事が出来る。
そして幼いアオイは確信した。
―――彼のぬくもりが一番安心できる、のだと…。
邪魔をされたにも関わらずキュリオに笑みを返したアオイ。すると…愛らしい笑顔を目にしたキュリオは…
『ふふっ
嫌がられなくて良かった。ここから落ちたら間違いなくお前は怪我をしてしまう』
『…なんてね。そんな事を言い訳に君がこの腕に抱かれてくれるのはいつまでだろうね…』
親離れするその時を想像し、寂しさに顔を歪ませたキュリオ。しかし実際アオイが王立学園に通っている今でさえ、キュリオは彼女を膝に乗せ抱きしめようとするのだから困ったものだ。
(大理石(マーブル)の上にいるのに…お父様のぬくもりを感じないなんて…)
そんな事を考えていると、急に懐かしさと恋しさがあふれ、自分のいる時代とは大きく違うのだと意識させられた―――。