狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのLXXⅥ
「……」
今度はアオイの紡ぐ物語に意見することなく聞き入るキュリオ。
「今から五百年以上も先の未来…。私は両親に捨てられた身寄りのない赤子でしたが、運良く…とあるお方に拾われ、ここまで育てていただきました」
「…それで?」
「愛を知らない私に…身に余るほどの愛情を注いでくださったんです」
「そうか…」
「でも、お父様の心は皆のものだから…。だけど…お父様はずっとひとりで…」
「…なぜそう思う?」
「それは…お父様が皆の大切な人だからです。でも…生きる時間が大きく違うせいで…」
「…だから誰かと心を通わせる事が出来ずにいると…?」
「…はい。誰かに執着するのが怖かったとおっしゃっておりました」
「それは違うな」
それまで相槌をうっていたキュリオが唐突に否定的な声をあげた。
「…え?」
「"お父様"は現にお前を娘として迎え入れたのだろう?」
「…はい」
幼いキュリオの言葉の意味がわからず、ただ頷くしかないアオイ。
「つまり…今まで心を通わせたいと思う相手に巡り合っていなかっただけの話ではないか」
「そんなわけありません…」
小さく反発するようにアオイは首を横に振って答えた。
「理由は?」
本来ならば彼の言葉は正論のはずだ。しかし、それはありえない…
「…だって…お父様はっ…五百年以上生きておられる方だから…っ…!」
「…なに…?」
わずかに瞳を見開いたキュリオ。そしてようやく合点がいったというように息を吐いた。
「そうか…お前のいう"お父様"は…セシエル様なんだな」
「……」
そう思われてもしょうがない。
今のキュリオの中に悠久の王は唯一セシエルのみで、次代の王が自身であるなど微塵も思っていないのだから…。