狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その14

「…キュリオ様あの少年…」


「アレス…お前も気づいたか」


「…はい。ですが…妙ですね」


「やつはヴァンパイアのハーフだ」


(ハーフ…つまり彼の父親か母親がヴァンパイア…)


「このような場所にアオイ様を通わせるなど…危険はないのですか?」


とてつもなく一般人のアオイ。相手がヴァンパイアであるかどうかなど、その特徴を見せられない限り気づかないだろう。


カイとともに前を歩くアオイを心配そうに見つめるアレス。


「…やつの吸血衝動はまだ見たことがない。
手負いの状態にさえならなければ…そのような禁断症状には陥らないのかもしれないな…」


「…畏まりました…。なるべく過剰反応せぬよう心がけます」


己のそれよりも遥かに重い悠久の王と姫の命。

キュリオの存在を脅かすことが出来る者がいるとは思わないが…


(…危険なのはあの少年だけじゃない。疑うことを知らない姫様…もしまたあの男が現れでもしたら…)


とまで考えてアレスは首を傾げた。


(あの男…?)


「……」


(城にまで乗り込んできた…はずの……)


思い出せない。思い出せないどころか、それが確かな記憶なのかさせ危うい。


「ん?なに難しい顔してんだ?アレス」


呑気に振り返った剣士に小さな期待を込めるが…


「……」


(…カイに聞いたところでまっとうな返事が来るとは思えない…)


「…アレス大丈夫?」


眉間に皺を寄せ、無言のままのアレスに気付いたアオイ。


(私の思い違いなのだろうか…)


アレスはただひとり、アオイやカイ、キュリオの顔を見渡してみるが…誰一人、"彼"の存在を警戒しているような者はいないのだった―――。


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