狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その37


(やつ(センスイ)か…)



キュリオの視線の先…物腰の柔らかい彼の面影はもはやどこにも感じられない。怒りに満ちたその顔はまさに鬼そのものだ。

その人間の姿をした鬼は瞳をギラつかせ、エデンに襲いかかろうとする身をクジョウという男がかろうじて止めている。


「…何か確かめる方法はないのですか?ぬくもりを感じたり、わずかな身体の変化でわかるということは!?」


(いくら中庭に残してきたとはいえ…流れ弾にでも当たったら大変だ…っ!彼女はその身を守る術をもたない!!)


自然とアオイを思いやる気持ちから語尾が強くなってしまうキュリオ。

すると、セシエルが冷静に答える。


「あるにはあるが、それを本人が自覚しているかどうか…」


「…どういうことです?」


含みのある言い方に怪訝な表情を浮かべ、問い返すキュリオ。


セシエルはこの世界が"夢"とも"彼が作り出した異空間"とも言っていた。
それならば彼なりの規則(ルール)があるはずなのだが、そのひとつが酷く重要なものだとわかる。



"この夢で死んではならない"



恐らくそれは…
この空間で死を迎えた者は何かしら現実世界でも大きなをリスクを伴う。


―――もしくは…本物の死―――。


「例えば…人は怪我をし、血を流せば…痛覚が必ず発生すると思い込んでいる。しかし、この"異空間"に実体のない幻なら…」


「痛覚がないということですか?」


「…その通り。だが、負傷時にそれを分析出来るほど…人の心は穏やかじゃないのさ」


(…人が夢を見ているとき、それが夢だと気付かない所以(ゆえん)がこれか…怪我をした本人は混乱に陥っている。それが感覚を狂わせるは当然のこと…)


(しかし、いくら夢とはいえ…彼女に怪我をさせるなど私には出来ないっ!!)


唇を噛みながらぎゅっと握りしめた神剣に力を入れたキュリオ。


「…つまりは、彼女を守り切れば良いのですね?」


「そういう事だ」


「…わかりました」


アオイを守り、セシエルが引き込んだ目の前の二人の男を消滅させること。

目的を明確にさせたキュリオの身を包む銀色の光が鋭く、輝きを強めていく。改めて戦闘態勢に入った彼をセシエルが目を細めて微笑んだ。


(強くなったね…キュリオ)



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