狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

前夜Ⅲ

「皆と同じがいいの…だから向こうから送れなかったらちゃんと自分で持って帰ってくるね。ありがとう、カイ」


「…そうおっしゃると思いましたよ。畏まりました。お困りごとがありましたらお声掛けくださいね」


「うんっ!」


学校に入学してからというもの、城の生活が苦になってしまったのかと周囲の者たちを驚かせるほどに、この少女は好んで民と同じ色へ染まろうと行動し始めたのだ。


(アオイ様がこう変わられたのもの…学園生活が楽しいからなんだろうな…)


彼女のこの行動が知られたら"姫としての威厳を損なってしまうのでは?"などと難色を示すものも多いだろうが、長年兄妹のように育ってきたカイは彼女の心に寄り添うことの出来る数少ない理解者だ。


カイの柔軟性のある考えにいつも救われているアオイ。


というのも…キュリオが如何(いかん)せん頑固だからだ。しかし、最近それを上回り、キュリオの言いつけを守らないアオイにキュリオが折れるような状況がずっと続いている。


(お二人は意見が衝突しているように見えて…結局はお互いを想った上での"お願い"だ。その事にキュリオ様も姫様もお気づきになられるのはいつだろうな…)


このような事をカイがキュリオに進言したところで聞いてもらえるはずがない。

本来ならば大魔導師・ガーラントあたりに相談するべきなのかもしれないが、その彼が気づいていないわけがなかった。


そのうちこの幼い姫に言い負かされるキュリオの姿が脳裏に浮かび、カイは苦笑したのだった―――。



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