狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

それぞれの想いⅠ

それっきり目を伏せたまま無言を貫いたキュリオに一礼し、大人しく引き下がる若き剣士。

重苦しい空気の中、おろおろとした女官や大臣たちが二人を見守っていた―――。



「大丈夫、一人で出来るよ。ありがとうアレス」


湯殿から上がったアオイは濡れた髪をタオルで包みながら鏡台(ドレッサー)の前で身支度を整えている。


「申し訳ありません、私の手際が悪いばかりに…」


「ううん、もう私も子供じゃないんだからしっかりしなくちゃね」


そう微笑んで鏡越しに彼の顔を見たアオイだが、心の中では別のことを思っていた。


(カイどうしちゃったんだろ…何も言わないで出ていくなんて…)


目覚めたアオイは目の前の魔導師へカイの行方を問うたが、"見ていない"の一点張りだった。

アレスとて本当のことを言えるわけがない。

この状況で彼女がキュリオに何かを懇願するようなことがあれば、余計話が拗(こじ)れてしまう可能性があるからだ。


(…風邪が悪化してしまった…?だとしたらやっぱり私のせいだわ…)


体調の悪い彼を遅くまで手伝わせてしまった事への申し訳なさからアオイの胸がズキリと痛んだ。


(せめて出かける前に顔を見てから行こう…)


「……」


と、ぼんやりそんな事を考えていたアオイの手元がふと狂ってしまった。



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