狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

小さな異変Ⅰ

「いや、しかし…」


アランが躊躇うのも無理はない。
彼らは旅行者で、あくまでも団体行動なのだ。そしてそれを店の者に任せるなど…


「お時間がないのであれば尚更…今は食事を召し上がる事を一番にお考えくださいませ」


「アラン先生、そうさせてもらおうよ。どっちみちすぐ合流するんだしさ？」


「……」


(たしかに…ここで様子を見てくるより食事に専念したほうが時間の無駄が少ないのかもしれないな…)


食事の速度が一番遅いのは明らかにアオイだった。

もとより小食な彼女だが、念入りにメモをとっているせいで今日は一段と遅かった。


(せめて彼女の食事が終わるまで…)


アランがもし席を立ってしまえば慌てたアオイが味わう暇もなく食事を飲み込んでしまう可能性が高い。


「では…すまないが、何の用件で騒いでいるのかだけ聞いて来てくれるだろうか」


「…畏まりました。失礼いたします」


にこやかな笑みを浮かべているものの、彼女の声はどこまでも落ち着いていた。


「……」


(大人の女性って感じがする…余裕があって、優しくて…)


思わず彼女の動作ひとつひとつに目を奪われているアオイの箸がとまる。


「アオイどうした？何ぼーっとしてんだ？」


「うん…大和撫子さん素敵な人だなって思って」