狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

緑色の粉

「…なんだ…?騒がしいな」


いち早く異変に気付いたアランの箸がとまり、その視線は閉じられた襖(ふすま)の向こうへと投げかけられている。


「ん?もう皆飯食い終わっちまったんじゃねぇの?」


パリパリと海老の頭を咀嚼するシュウの唇は妙な艶があり、天婦羅が油を含んだ料理であることが見受けられた。


(大和撫子さんのお話聞きそびれちゃった…)


アオイは残念な気持ちを紛らわせるように、添えられた緑色の塩で天婦羅をいただく。


「…おいしい」


(なんだろうこれ…)


細やかな塩の結晶に絡むさらりとした緑の粉。

箸に残ったそれを舌先で舐めてみる。


(…?)


口にしたことのあるようなないような…しかし、懐かしい味がした。


「アオイ、少し急ごっか。アタシたち出遅れてんのかもしれない」


「う、うん…」


ぼんやりと考えていたアオイにミキが顔を寄せてくる。


「ほら…そんなの突いてないで、これ"茶碗蒸し"っていうんだってさ」


ミキは陶器にはいったプリンのような物を傾けて見せてくれた。


「それ茶碗蒸しっていうんだね。てっきり飲み物が入ってるのかと思ってた」


照れ笑いするアオイだったが、間髪を入れず声があがった。


「アタシも!」


「俺も!」


三人は顔を見合わせながら楽しそうに笑っている。


「…私は向こうの様子を見てこよう。君たちはこのまま食事を続けていなさい」


「……」


「はーい!」


茶碗蒸しを口に含んだアオイにかわってミキが返事した。

箸をおいたアランが立ち上がろうとすると…


「先生様もここでお待ちください。…私が様子を見て参りましょう」
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