狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

炎より恐ろしいモノ

(この靴…とても走りにくい)


歩きなれない下駄で街を駆けていくアオイの足に血が滲んでいる。あまり痛みに耐性のないアオイだが、この緊迫した状況でそんなもの気にならなかった。


「どっちに行けばいいんだろう…」


大きく二手に分かれてしまった道の真ん中で立ちつくすが…


「こっちのほうが火のまわりが早い…逃げ遅れた人がいるかもしれない」


夜にも関わらず空は赤く、雲のような煙があたりに立ち込めて視界と呼吸を大きく乱していく。


「…はっぁ…っ…」


煙が目に染みて自分の意志とは無関係に涙が溢れて自然と足が止まってしまう。


(立ち止まっちゃだめっ!!)


「急がないと…っ」


「誰かいませんかっ!?逃げ遅れた方は…っ…!!ゴホゴホッ」


大きく息を吸い、煙を取り込んだアオイは強く咳き込んでしゃがんでしまった。


すると…


「誰か来てくれ!!母さんが…っ!!母さんがっっ!!!」


悲痛な男の声が響いた。
民家が燃える音と爆発音で彼の声はかきけされ、助けに来る気配はない。


「ど…っどこですか!!今行きますっ!!」


掠れた声を絞り出した懸命なアオイの声は届いたようで、わずかな希望を見出した男の声が返ってくる。


「こっちだっ!!ありがてぇ!!!」


少し離れた場所から大きく手を振る男を見つけたアオイはなるべく火から離れながら男のもとへ急いだ―――。


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