狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

退路を開く者

「うわぁああっ!!!!」


「きゃぁああっっ!!」



燃え盛る炎に包まれた民家が次々と焼き崩れ、激しい熱風が一面に吹き荒れている。複雑に入り組んだこの狭い路地は人の逃げ道をふさぎ、四方八方を炎に囲まれた民たちが絶望のなか悲鳴を上げるしかなかった。


「危ないっ!!」


頭上から人々を襲う炎を刀の発する爆風で押し返した"大和撫子"がさらに刀を振り上げると…



―――ドォオオンッ!!



燃えた民家で行く手を阻んでいた路地のひとつが一瞬にして人々を助ける退路へと変わった。


「あ、あんた何者だい…?」


例え炎が消えたあとだとしても、一戸の民家を片付けるのは気の遠くなる作業のはずだ。

それをたかが刀一振りでいくつもの燃える民家を破壊し、消し飛ばしてしまうような真似事が出来るのは…


「もしかしてっ!!王様かい!?」


「ああ!こんなこと出来んのは王様しかいねぇ!!」


「……」


王と顔を合わせる機会のない彼らが知らなくとも無理はない。そしてさほど興味の示した様子もない"大和撫子"は退路を見つめたまま冷静に言葉を紡ぐ。


「…この道を進んで川を渡りなさい。そこでも火の手が上がるならば川の中へ」


大人の膝ほどまでしかない川ならば危険はない。

そして四方八方を囲まれる心配のない水の中なら昇ることも下ることも出来る。

的確な指示を出し、燃え盛る炎を高く飛び越えては新たな生存者のもとへ走る。


肌を焦がす熱風にさえその美しい表情は歪められることはなく、黒く立ち上がる煙の中にも迷うことなく突き進む。




(この街全体を吹き飛ばす事は簡単だ…しかし生存者がいる。巻き込むわけにはいかない)




「……」


ふと、何かが気になった彼女は斜め後方を振り返ると元来た道を引き返し始めた。


"特にその簪(かんざし)似合ってるねぇ!大事な人からの贈り物なんだろ?"


「無事ならいいが…」




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