狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

最良の選択Ⅰ

「大和のやつ…っ…」


水鏡の前に立つ少年が眉間に皺を寄せながら唇をかみしめている。

彼らの住まう場所より一連の流れを見守っていた蒼牙(そうが)の瞳は悲しみに打ちひしがれた仙水をうつしていた。


(もっと別な方法ねぇのかよ…っ!!)



それから程なくして帰還した大和と仙水。



「……」



「……」



無言のままそれぞれ距離をあけ扉を入ってきたが…大和の後ろを歩く仙水の足がおぼつかない。


「仙水…」


駆け寄ろうとした蒼牙の横を黒い影が通り過ぎた。


(…九条いつの間に…)


神出鬼没な九条はいつも何を考えているかわからないが、仙水とはとても親しい仲にある。

そして寡黙な彼こそがこの場合適役なのかもしれない。かける言葉も浮かばず狼狽える蒼牙よりも黙って傍にいてやれる九条のほうが数倍ましだ。


そう判断した蒼牙は仙水と九条の背中を見送ると…足早に湯殿へ向かった大和を追いかける。



「待て大和!お前…っ!!」



「…何の用だ」



蒼牙の呼びかけに鬱陶しそうに振り返った大和。

結局番傘を投げ捨ててしまった彼の着物と顔は返り血を浴びて汚れていたが、それさえもこの男を彩る紅(べに)のように見えるから不思議なものだ。


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