薫子様、一大事でございます!

今更、あれは嘘でしたと白状することも、プライドが邪魔してできず。

かといって、周りに恋人のフリを頼める女友達もいない。


そこで、たまたま辿り着いたのが、ここ、二階堂探偵事務所だったということだった。



「……早川さん、大変申し訳ないんですが、その依頼をお受けすることはできません」

「え? でも、法に触れないですよね?」

「ええ、まぁそうですが……」

「ちょっと待ってくださいよ、北見さん!」


黙ってデスクから眺めていた私は、北見さんのお断りの返事を聞いて、慌てて二人の前へと参上したのだった。


「どうして断るんですか?」

「どうしてって……。恋人のフリって、誰がやるんだよ」


北見さんが小声で私に問う。

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