薫子様、一大事でございます!

「春日! これは一体どういうことだ! 誰も入れるなと言ったはずだぞ!」

「は! 申し訳ございません! ですが、」


春日と呼ばれたさっきの黒尽くめの男が、困惑気味にDCHと女性を交互に見る。


「おかしいわね、ないわ」


這いつくばるような体勢で何かを探していた女性が、パッと顔を上げて私を見た。



――あれ?



どこかで会ったことがあるような……。


その女性も私を見て、口をポカンと開けたのだった。



――沙織さんだ。
恋人の振りをして会ったときの、相手の彼女。


名前を呼ぼうと開きかけた口は、沙織さんの何かを強く訴えるような視線で閉じた。

< 461 / 531 >

この作品をシェア

pagetop