薫子様、一大事でございます!
「北見さんのお背中を見てきたからこそ、でございま――っと、失礼しました」
滝山はそこで口をつぐんだ。
北見さんの名前を出したことを“うっかりミス”だと思ったに違いない。
滝山の中ではどうも、北見さんの名前を出すことはタブーになっているらしい。
でも、滝山の言うとおり。
北見さんのしてきたことを真似ているだけなのだから。
「滝山、気にしなくていいのよ」
「……ですが、」
「私は全然平気だから。以前の私たちに戻っただけ」
「……さようでございますか」
「ほんと元気だから。ね?」
振り返って笑顔を見せる。
すると、滝山も大きな目を細めて笑ってくれた。
「そうでございますね。また、二人で頑張っていきましょう。この滝山がいれば、何の心配にも及びません」
頼もしいところを見せようと、胸を拳でひと叩き。
直後に「ゴホッ」とむせる。
「もう、滝山ったら大丈夫?」
「ええ、ええ、大丈夫です」
胸を押さえながら苦笑いを浮かべた。