薫子様、一大事でございます!

「北見さんのお背中を見てきたからこそ、でございま――っと、失礼しました」


滝山はそこで口をつぐんだ。

北見さんの名前を出したことを“うっかりミス”だと思ったに違いない。


滝山の中ではどうも、北見さんの名前を出すことはタブーになっているらしい。


でも、滝山の言うとおり。

北見さんのしてきたことを真似ているだけなのだから。


「滝山、気にしなくていいのよ」

「……ですが、」

「私は全然平気だから。以前の私たちに戻っただけ」

「……さようでございますか」

「ほんと元気だから。ね?」


振り返って笑顔を見せる。

すると、滝山も大きな目を細めて笑ってくれた。


「そうでございますね。また、二人で頑張っていきましょう。この滝山がいれば、何の心配にも及びません」


頼もしいところを見せようと、胸を拳でひと叩き。

直後に「ゴホッ」とむせる。


「もう、滝山ったら大丈夫?」

「ええ、ええ、大丈夫です」


胸を押さえながら苦笑いを浮かべた。

< 519 / 531 >

この作品をシェア

pagetop