想い涙
別れ
眩しいほどの朝日を感じて、瞼を押し上げた。
数回瞬きして窓を見れば、カーテンは全開だった。
働かない頭でぼんやりと閉め忘れたことに気づけば、徐々に昨日の記憶がよみがえる。
昨日は高校時代の同窓会だった。
集まりが良く、3年ぶりに再会したクラスメイトも数人いたからか、准は中盤にはみんなが心配するくらい酔っぱらっていた。
おかげでわたしまで二次会に参加することは叶わず、一次会が終わると共に准を引きずるようにして、わたしの部屋に帰宅したのだ。
部屋に着いてからも准は酒をねだり、付き合って飲んだわたしも普段の摂取量を超え、酔いが回って頭の中がふわふわし出した。
そこから先は思い出せないので、酔っぱらって記憶を飛ばしたのだろう。
記憶がなくなるまで飲んだのは初めてだった。
昨日准と飲み始めた時点では、初めての二日酔いを覚悟していたが、意外にも頭の痛みはなく、むしろすっきりとしていた。
ただ布団を掛けていなかったせいか、喉の渇きがひどかった。
ベッドから這い出し、冷蔵庫へと向かいながら、お気に入りのワンピースについてしまった皺を伸ばそうと引っ張ってみる。
元に戻るはずもなく、どうせ今日は授業がないし、あとでアイロンをかけることに決める。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、コップに並々と注ぐ。
一気に飲み干して、そういえば准は帰ったのだろうかと携帯を探す。
朝に強い准は、気分によって一限をサボるわたしとは違って、欠かさず授業に出席する。
わたしの部屋から大学に行くときは、准いわく何をしても起きないわたしにはメールを残して出て行く、というのが二人の決まり事の一つだった。
床に脱ぎ捨てられていたトレンチコートのポケットから携帯を取り出す。
一緒に、丸められたメモ用紙が転がり落ちた。
広げてみるが、何も書かれていない。
強いて言えば、濡れて乾いたような跡があるだけだった。
「誰、こんないたずらしたの!」
もう一度丸めてゴミ箱に向かって投げるも、届かずに床に転がった。
改めて捨て直す手間も面倒で、気を取り直して携帯を確認する。
メールは一件も届いていなかった。
昨日かけられた散々な迷惑を思い出すと連絡もないのは腹立たしかったが、准はだいぶ酔っぱらっていたし、体調も心配だ。
生存確認のメールだけは送ってみようと、アドレスを探す。
「あれ?」
准の連絡先がどこにも入っていない。
記憶のない空白の時間の間に、准と揉めて、自分で消してしまったのだろうか。
最近二人の関係性にストレスも溜まっていたし、考えられない状況でもなかった。
ゆきに准の連絡先を教えてほしい旨をメールで伝えて、携帯をテーブルに置く。
今日の授業は午後からで、まだ起きなくても良い時間だったが、目はすっかり醒めていた。
まずはメイクを落とそうと、洗面所に立つが、鏡に映った自分を見て愕然とした。
ただメイクを落とさずに寝ていただけでなるような状態ではなかった。
マスカラもアイラインも流れて、目の周辺を黒く大きく縁取っている。
まるで泣いた後のようだった。
やはり昨日、喧嘩したのだろうか。
自分の顔を呆然と見つめていると、携帯のバイブ音が鳴り出す。
時間の長さから、メールではなく電話だとわかり、急いで洗面所を出る。
准かもしれない。
自分の振動でテーブルの上を動く携帯を持ち上げる。
通話ボタンを押そうとしたところで、相手がゆきであることに気づく。
「おはよー、朝からメールしてごめんね」
「気にしないで。未花と違ってわたしはいつもこの時間には起きてるから」
「だらしなくてごめんね。で、准の連絡先教えてもらっていい?別の人と間違って消しちゃって」
酔っぱらって別れたかもしれないということは伏せて、ゆきに伝える。
「そう、准って誰って聞こうと思って」
「……え?」
「准って誰?学科の人?サークルの人?」
「誰って、わたしの彼氏……」
「未花の!?いつの間に彼氏できたの!?」
急に頭が痛くなった。
妙にリアルだけど、きっと、これは夢の中なのだ。
「ごめん、また連絡する」
夢の中のゆきに一応謝罪をして、再び布団の中へ戻った。
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