弟、時々恋、のち狼

アタシは、何一つ考えることすらできず、ただ、静かに近づいてくるロウの瞳を見つめ返していた。


ふわり


吐息が、かかる。

体中が粟立つような、背筋から溶けていくような感覚。
甘い、誘惑。

澄んだ瞳から目が離せない。


…………あぁ……。


胸がしめつけられた。
何かが、かすかに脳裏を走る。


静かに、少しずつ、唇が…………



キンコーン
カーンコーン


ビクリッ

二人同時に、体が震えた。

アタシは、焦ってロウを突き飛ばす。

一瞬の隙があったのか、腕はあっさりと、ほどかれた。


カァァァッと、我に返った頬に血が上る。じんわり、涙が滲んだ。


「ミイ……」


後退り……もう、顔は見なかった。
見たらきっと…………ほだされる。


アタシは、そのまま駆け出した。

悲しい顔をしているだろう、ロウを残して。


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