インセカンズ
亮祐からプロポーズされたのは、二日目の夕方だった。

彼が手配していたレンタルカーで、道中寄り途をしながら、豊かな緑と海に恵まれた郊外のリゾートへ向った。

「年末年始は二人の予定が合わなくてどこにも行けなかったから、今回はその分も兼ねてってことで気に入ってくれるといいけど」

と、亮祐が思わせぶりに口にしたそのリゾートは、まだ遠距離になる前に彼の部屋で捲っていた建築雑誌で特集を組まれていたホテルだった。緋衣がひとつの夢物語として、式を挙げるならこういった白亜のチャペルがいいと漏らしたことを覚えていたのだ。

早目にチェックインをすると、ホテルでの夕食まで敷地内を散歩することになった。

全面に広がる海が見渡せる場所に設置されたオープンテラスで、春になったとはいえ潮風で冷えてきた体を温めるように二人してホットコーヒーを啜っていた。

「正直言うと、遠距離は自信がなかったんだ。だからといって、緋衣から仕事を奪ってまで俺のエゴで転勤先に連れていくなんて考えられなかった。言葉にして縛ってしまうより、このまま成り行きに任せた方がいいのかなって思ってたんだ。

でも、半年やってみて距離は乗り越えられるって確信が持てた。今回の転勤は始めから二年って言われてたし、俺が本社に戻ってくるまでは別居婚でも、届け出はまだ出さずに婚約期間という事でも構わない」

亮祐は、「俺と結婚してほしい」というシンプルなプロポーズの後でそう続けた。

< 115 / 164 >

この作品をシェア

pagetop