インセカンズ
部署に戻ると、同じく同期のミチルが帰り支度を始めていた。
サイドの髪を耳に掛けたミディアムボブがよく似合う、スタイリッシュな女性だ。

「いいなー、ミチル。もう帰れて」

「当たり前。いつも定時に帰るつもりで仕事進めてるんだから。アズだってそうでしょ?」

「あ~。それ、耳痛い」
緋衣は、両耳を塞いで首を横に振る。

「今日はヒデと約束してるから尚更なんだけどね」
ミチルは、ふふ、と口元に笑みを浮かべる。

「相変わらず仲良いよね」

「まーね。近くで待ち合わせしてるから、顔見てく?」

「え~? わざわざ見に行かなくても知ってるし、ヒデ君。それに今外出たら、絶対このまま帰っちゃいそう」

「アズ、今日は会社で夕食済ませるつもりでしょ? 買い出し行かなくていいの?」

「うん。おやつに差し入れのプリン食べたし、目途が立ってからにする」

「そう? じゃあ、私は帰るね。お疲れ~」

「お疲れ様。ヒデ君によろしくね~」

手のひらをひらひらと振ってミチルを見送れば、すとんと自分の席に腰掛け、一呼吸する。

効率が落ちている理由は分かっている。
仕事中に余計な事を考えたくなくて外回りを詰め込んだ結果がこれなのだから自業自得だ。
とにかく始めないことには終わりが見えないと、ファイルに手を伸ばした。

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