インセカンズ
「気分悪くしたか? そういう意味で言ったんじゃねーよ」

安信は持っていたコーヒーカップを置くと、緋衣の真意を確かめるようにじっと見つめる。

「分かってます。私もそういう意味で言った訳じゃなくて……」

緋衣は首を竦める。嫌な言い方をしてしまった。安信にはこれ以上迷惑を掛けられないと気を遣ったつもりがタイミングを間違えてしまった。彼との掛け合いをどこかで楽しんでいたのに、今は気まずい雰囲気が漂っている。

「ごめんなさい。ヤスさん、出張帰りで疲れてるのに私がベッド独占しちゃったみたいだし、今日はゆっくりしてほしいなって思っただけなんです。私も晴れてるうちにお洗濯したいし」

言い訳めいた言葉しか出てこない自分が歯痒い。それとなく逸らしていた視線を安信に向けると、彼は怒ってなかった。

「じゃあ、送ってやる。俺、休みの日に家でじっとしているのって苦手なんだよ。本屋行く予定だったし」

「……ついでなら、お願いしてもいいですか?」

「だから、いいって言ってるだろ」

屈託ない笑顔を寄せられて、緋衣は曖昧な笑顔を返す。

「スエット、洗ってお返ししますね。下着は……新しいの買ってお返しします。同じ形のでいいんですよね?」

「いや、一枚二枚増えたところで変わらないから置いとけよ。寧ろ、下着はそのまま返してくれ」

「……朝からオッサンですか」

「トークの潤滑油だよ」

緋衣が呆れた声を出せば、安信はけらけらと笑う。彼のおかげで気まずい空気はあっという間に消し飛んでしまった。
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