メランコリック
気に食わないから、「いじって」やろう。
そんな流れに持っていったのは俺だ。
何をしても表情を変えない、陰気な根暗女が疎ましかった。

いっそ、辞めてくれたら気分爽快だ。
ちょっとした悪戯から始まった俺の「いじり」は、バイトや先輩にも波及して、今やあいつはこの店舗の共通の迫害対象。

誰か敵がひとりいると、仲間がまとまり、結束が強まるのは当然のこと。

あいつをエネミーとして扱うことで、俺は多少なりとも楽しい社会人生活を送れている。
ムカつくとしたら、あいつが俺の「いじり」に対しても一切反応を示さないことだけれど。


「ねぇ、相良くーん」


俺の横にするっと寄ってきたのはふたつ上の先輩・兵頭さん。
下から俺を見上げる彼女は、女子全開の視線だ。カールしたミディアムロングの茶髪。最近つけたまつげエクステでばっさばさに縁取られた目。迫力がある。


「今日、帰りさ、一緒にごはん行こうよ」


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