我妻はかごの中の鳥
行き先は決まってる。
歌月の職場の近く…らしい、喫茶店。
歌月の職場に行ったことはないけど、話を聞いた限りそうらしい。
ふらふら電車を乗り継いで、ついたアンティーク調の店内にこっそりと入る。
知らない場所は怖くて新鮮。
店内の人間の視線にびびりながら、一番隅っこの席に彼女を見つけた。
茶色のふわふわの髪…まちがいない、彼女だ。
知らない人ということで二の足を踏み、帰りたくなった時だった。
彼女は私に気づいてしまったのだ。
「…あなたが、日向さん?」
にんまりと、妖艶に笑う。
腹のそこがひっくりかえったようにビビるが、こくんと飲み込んで。
「は、ひ……はく…日向瑠璃です」
まだ変わってない名字に見栄を張りたくて、そう言う。
「…初めまして、私、飯塚佳奈未です」
きれいな人。
私なんかより、ずっと魅力的な人間。
小さい声じゃなく、ちゃんと大きな声だし。
「あ、ぅ…」
食べられる前のような恐怖感の中、嫉妬が生まれた。
キラリと光る左手を切り落としたいよ。
ふわふわの髪をむしっちゃいたい。
かなわない衝動に、唇を血が滲むほど噛んだ。