パズルのピース
 あの頃の自分は決して大人ではなかった。でももう少女でもなかった。

 ひどく曖昧で、不安定で弱かった。―男の人に愛されることを切に望むのに自分のことは大嫌いで仕方がなかった。
 そして愛されることを求めるくせに自分の存在を消し去りたいと常に考え、何もかもに絶望し呪い母親をひどく憎んでいた。

 しかし一体そんな自分が、自分で自分を愛せなければ誰にも愛してなどもらえないということに気付けたのは―男の人に愛されたがるのをやめるようになったのは…何故だろうかと考える。

 時間の経過とそれに伴う経験値だろうか?

―そう思う…考えられるようになっただけでも、あの頃よりうちは強く…なれたんかな?

 あの頃の自分はきっとBARでウイスキーやブランデーを嗜みつつ見ず知らずの人ともそこで談笑したり、思い付きで誰に何を相談も告げるでもなくひとり京都に移り住みそこに溶け込み生活をするだなんて夢にも思わなかったに違いない。

 私は母親から離れるため、思い付きと逃げ出したい気持ちを抱えて京都に来た。

 東京弁がかわいいと言われたりする反面、関東人だと嫌われたり嫌味を言われたこともあった。けれど自分を知ってる人間が誰もいないことが救いだった久美子にとってそれは大した問題ではなかった。

 おそらくは流されやすい性分の久美子は京都に来て2年足らずで京都弁を身に付け、東京にいたころとは違い積極的に街へ出向き一人でいろいろな店を回り飲み歩いた。

 今では東京出身だと言ってもなかなか信じてもらえないほどすっかり京都人として振る舞い、また扱われている。

―人は変わるんや。いろんな風に…。

 足音がよく響く板張りの川床へ小走りに「遅くなってごめんやで!」と言いながら、バタバタと音を立ててようやく連れがやって来た。

「大丈夫やで。全然退屈しいひんかったしな。」

 久美子は笑顔で答えた。



 久美子が東京に戻ることはもうないだろう。

 母親の京都への訪問も正直鬱陶しい。母親のことは憎んではないにせよ未だに過去は傷となって久美子の心を抉り取ったままなのだから。
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