甘い時 〜囚われた心〜
「お帰りなさいませ」

仕事を終わらせ帰ったのは日が変わる少し前。

制服のまま、雛子の部屋に向かった。

ガチャリ…

扉を開けると、寝ているだろうと思っていた雛子がいた。

ベランダに立ち、外を見ている。

春だが、まだ肌寒い。

部屋が暖かい分、薄着でいた雛子は軽くストールを羽織っていた。

長い髪がたまに吹く風になびく。

消えてしまいそうな小さな体。

すぐにでも捕まえなくては飛んで消えてしまいそうで、桜華は後ろから抱き締めていた。

「寒いだろ…風邪を引くぞ…」

桜華だと気付き、ふふっと笑う。

「お帰りなさい…お仕事、忙しいの?遅かったから心配してたの…」

後ろから抱き締めていた桜華の腕に手を絡ませ、頬をすりよせた。

「あぁ…少しな……もう少し…したら、すべて終わるはずだ…」

「そう…あまり無理をしないで…体を壊したら大変…」

「大丈夫…雛子がいてくれるから…」

「…」

雛子は何も言わずに、桜華の手にキスをする。

その瞳に、涙が揺れるのを桜華は知っていた。

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