甘い時 〜囚われた心〜
言えなかった思い
一ヶ月後、退院した雛子は桜華と百合矢・美那と神楽家に来ていた。

客間に上座に座る雛子達の前に、今までと逆に客として座った晋也と祐希奈。

晋也は、畳に頭を擦り付け、謝った。

「雛子…すまなかった…」

祐希奈は目線を外し、震えている。

「謝っても許されるとは思っていない…俺の兄貴への暗い思いが招いてしまった事だ…すまなかった…」

頭を下げたままの晋也を見て、雛子は首を横に振った。

「おじ様…もういいんです…」

「いや…許される事ではない…」

止める雛子の言葉も聞こうとはせず、頭を下げ続けた。

「謝る必要なんかないわよ!パパや私が分家なんて惨めな思いしてるのも、勇馬おじ様のせいじゃない!」

「祐希奈…」

大きな目に涙を溜めて叫んだ。

「何で、勇馬おじ様が死んだのにパパが当主になっちゃダメなの!?何で、いつまでたっても、私達は幸せになれないの!?」

ボロボロと涙を流し、叫び続けた。

「祐希奈…お前にまで、憎しみを抱かせてしまった…」

晋也は、畳に付いた手を握り締め、涙を落とした。
< 163 / 175 >

この作品をシェア

pagetop