甘い時 〜囚われた心〜
「最近…」

そう言いかけて、尚人が黙る。

「はい?」

聞き返すと、少し、悩むような表情をしてから、また口を開いた。

「最近…お元気がないようですが?具合でも悪いのですか?」

その質問に、戸惑う。

具合が悪いわけではない。

ただ、桜華が自分に触れないのが気になる…

まぁ、尚人に言えるわくもなく、プルプルと首を横に降った。

「そうですか…でしたら、いいんですが…桜華様も心配されていましたから」

その言葉に、「えっ?」と尚人の顔を見た。

「1ヶ月前の盟和との件…実は、雛子さんを少しでも喜ばそうとして、盟和との交流会を開かれようとしていたんですよ。昔のご友人と再会すれば、喜ばれると思って…しかし…」

コーヒーをカップに注いでいく。

「桜華様が私のために…」

だから、謝ってきたんだ…

やっと、あの時の桜華の謝罪の理由がわかった。

尚人は銀のトレイにカップとお皿、手拭きを乗せた。

雛子は、すごく桜華に会いたくなっていた。

トレイを持ち、扉に向かっていく尚人を呼び止めた。


「あの!…あっ」


「はい?」

優しく首を傾げる。

「私に持っていかせてくれませんか?」

なぜか必死になって言っていた。

尚人は、クスリっと笑うと、雛子の前にトレイを出した。

「よろしくお願いします。私は少し、部屋で用がありますので、助かります」

「はい!」

トレイを受け取る。

尚人が扉を開けてくれた。

「雛子さん」

部屋に向けて歩き出した雛子を呼び止めた。

「はい?」

「その格好…かわいいと思いますが、お止めになった方がよろしいですね」

「……はい……」

なぜだ?と思いながら、とりあえず、返事をしてみた。


尚人はニッコリと笑うと「よろしくお願いします」と言って、扉の中へと消えていった。
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