無垢な瞳
アキは客席に向かってこう言った。

「私たちは数ヵ月後それぞれの道へ向かうために、離れ離れになります。たかが小学校生活6年間のうちのたった1年じゃないかとおっしゃらないでください。この1年は私たち一人一人にとって深い意味の持つ一年でした。今日のこの瞬間がここにいる全ての人の胸の中で、ずっと生き続けますように」

アキは落ち着いていた。

またくるりと振り返ると、ケンの方を向いて合図をした。

アキが指揮棒をあげるのを確認して、ケンは小さな声で言った。

「1・2・3・4‥‥」

ここでコウの前奏が入る。

よし予定通り。

アキの指揮棒とも合っている。

大丈夫だ。

ケンは小さな声で、コウのピアノが指揮棒と合うようにカウントを取った。

コウは普段の練習どおり小気味よく演奏する。

会場から感嘆の声が漏れた。
< 141 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop