無垢な瞳
ヒグラシが過ぎ行く夏を惜しむかのように鳴いている。

もう陽も落ちかかっている。



アキは一人縁側に座り空を見上げる。

宵の明星が光り輝いた。

「アキ……」

隣にケンが腰を下ろす。

アキは隣にいるのがケンのようでケンでない気がしていた。

もう子どものころのようにはいかないのかもしれないとうすうす感じてはいた。

そんな気持ちを払いのけるかのように、威勢のよい言葉が口から出る。

「ケン、容赦しないわよ」

アキの気持ちを見透かすようにケンは笑う。

「いくら専門的に勉強してきたからといって、結果を出さなければ首だからね」




二人は暮れ行く西の空を見つめる。



「よかった、アキはやっぱりアキだ」



そっと伸ばしたケンの手はアキの手に重ねられる。

コウの弾くピアノは心地よく二人をくるむ。

台所から夕げの支度の匂いがする。



「今日はごちそうよ。新しい門出に祝杯をあげないとね」



そう。

ここは僕らの原点。

僕らはここからなら始めることができる。














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