無垢な瞳
エピローグ
「いよいよだね、アキ」



コウがピアニストとしてデビューする公演初日。

僕らの夢は単なる一プロダクションの枠を越え、日本中がいや世界中が注目する壮大なものへと膨らんだ。

ノーマリゼーションを推進する世界中の流れと合致したという幸運も手伝っていた。

ハンディキャップをもつ人々が、健常者と同じように仕事をして報酬をもらい自立する。

そんなごく普通のことがずっと難しくて長年みなが悩んできた。



「ケン、聞いた? BBCも取材に来てるって」

アキが頬を紅潮させる。

控えめな黒いワンピースだが、アキは輝きを放っている。

「やっと夢が実現するな」

ケンは舞台袖から客席を覗く。

「うん。私今日のこと絶対忘れないわ」



いよいよ開演だ。


「コウ、大丈夫。きっとうまくいく」

ケンはコウをエスコートして舞台に上がる。



拍手はない。

コウのために事前に知らせてある。



大きくなった二人の背中を祈る思いで見つめるアキ。




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