無垢な瞳
ケンがコウを舞台中央に立たせると、コウは打ち合わせどおりに頭を下げる。

そして椅子に腰を下ろす。

ケンもその横に座る。



タキシードで正装した二人だけど、胸に抱えるものは八年前と変わらない。



アキは客席に目をやる。



愛しい人たちが駆けつけてくれていた。



芝山先生。

沢村先生。

ユウキ。

サオリ。

六の一のみんな。

校長先生。

ケンのおじいさん、おばあさん。

ケンのお父さん。

美佳子ちゃん。

美佳子ちゃんのお母さん。

アキの母さん。

アキの父さん。



そしてコウのお母さん。



「ありがとう、みんな」



アキは涙がこぼれ落ちないように、スポットライトを見つめる。



コウが鍵盤に両手を乗せ、音楽が始まった。

大人になったコウの指は太く力強くダイナミックにピアノを歌わせる。

コウのピアノが笑う、怒る、ささやく、感謝する。

コウの人格がこの瞬間に表現される。




――コウが昔描いた赤いグランドピアノの絵。

彼の中に眠る情熱がその絵に描かれていた。

そしてその情熱が、今舞台の上で再現されている。




「ありがとう」



アキは光り輝く二人の姿にそうつぶやかずにいられない。





すべてが今この瞬間から始まる。






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