無声な私。無表情の君。
しかし、その後から会話もする事もなく、下校時間が過ぎていった。
何か話題提供したらいいと思うけど…。
右手、使えないし。
あと、5分もすれば私の自宅に到着するだろう。

「……先輩」

ふと私を呼ぶ東雲君。
とてつもなく気まずい。
私が拒否反応を起こしたばっかりに。

「ごめんなさい。手、強引に繋いでしまって…」

フルフル

大丈夫…だけど…。
なんで私と繋いでるの?
聞きたかった。

「自分でも反省はしています。
でも先輩を見たら抑えられなくって…」

抑える?何を?
私を見て堪えきれない物が出てくるか?
いや、出てこないな。
だとしたら何だ…?
疑問に疑問が重なりまくる。
頭の中が考える事をやめた。

「でも俺!先輩の事……」

急に襲ってくる静寂。
東雲君も黙り込んでしまった。

「やっぱり……なんでもないです」

「あと少しで先輩の家、着きますね」

ガラッと話を変えてきた。
いつもの笑顔とは違って苦笑いだった。
そして、とうとう私の家に着いた。
なんか、無駄に疲れたなぁ。
スルリと手が離れていくのがわかった。
解放感が半端でない。

「………」

東雲君は黙り込んで何も話さなかった。
ただ私の瞳をジッと見つめて
こう言った。

「先輩、我慢の限界です」

急に私の後頭部に手をまわして東雲君は私の唇を許可なく奪った。
私は例えられないぐらいの失望感に襲われた。
ファーストキスは家族としているので、絶望まではいかなかったので不幸中の幸いって所か?
一瞬の出来事だが長く感じた。
私はパニックになって状況の整理がつかなかった。

「入学式の頃からずっと先輩の事が好きでした。
やっと声をかける事が出来て……
嬉しくて……
もう見てるだけじゃあ嫌なんです。
俺と付き合ってください」

真剣そのものだった。
全然気づかなかったし、私の事を想ってくれている人が、こんなにも沢山いてくれてるんだね。
でも、私には康介しかいない。
康介じゃなきゃダメだ。
答えは簡単に出てきた。
考えるまでもなかった。

【ごめんなさい 私にも好きな人がいるの】

「え…?」

唖然とした表情で東雲君。
もしかして、私が断る事が想定外だったのかな。
それとも好きな人がいる事について?

「俺、先輩の事愛しているのに…?
その人よりも先輩の事好きなのに!
先輩っ!先輩!」

ーその人よりも先輩の事愛しているのにー

そのフレーズが頭に響く。
本当にそうだったりして。
そう思うと胸が張り裂けそうになった。

東雲君も必死になっている。
多分初めての告白なのだろう。

「ねぇ、俺だけのものになってください。
お願い……先輩……」

あれ、東雲ワールドに入ってる?
もしかして……。

「キスだってしたのに…」

そう言われると恥ずかしくなるな。
かなりショックだったけども。

【むりやりだった】

あと

【とってもイヤだった】

私から康介と付き合う資格を奪い取られた感じがした。
ただでさえ嫌われているのに。

「それは…すいません……。
本当に反省しています……。
だから…少しだけ考えてはくれませんか?」

そんなのは無理だ。

【なんで? イヤだ】

「でも、彼氏いないんですよね?
それなら俺にも部があるでしょう?」

あぁ!もうじれったい!
しつこいんだよ!

私の中で、何かが吹っ切れた。
付き合ってもいいかな…なんて思い始めていた。
そして、気づいた時には遅かった。

【わかった OKする】

「え、先輩?」

【その代わり今日はかえって】

【私の前から消えて】

【つかれた】

誰だ。これは。
女王様かよ。
只今イライラメーターがMAXです。
付き合うってのも真っ赤なウソ。
自分がもろい藁の家みたいに崩れていってるのがわかる。
私の人生、どうなるんだろう。
我に返った時には東雲君は居なかった。

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