水平線の彼方に( 上 )
「きゃーっ花穂!久しぶりぃ!」
「岩月じゃん!変わんねー!」
「元気だった〜⁉︎ 花穂ー 」

注目されて照れていると、座敷の奥から、小柄な女性が走って来た。

「花穂っ!久しぶりっ‼︎ 」

抱きつかれたその人を、私はよく知っている。

「砂緒里!」

中学時代からの親友、津村砂緒里(つむら さおり)は、私から離れ、変わらない顔を見せてくれた。

「おかえり花穂!いつこっちに戻ってたの⁉︎ 」
「そっちこそ、いつからこっちにいるの⁉︎ 」

聞きたいことは山程ある。だって、会うのは三年ぶりだから。

はしゃぎながら奥の方へ行くと、同じバトミントン部に入っていた同級生二人の顔があった。

「モコ!あーや!」
「花穂ー!」
手を取り合って、四人でキャーキャー喜んだ。
この時ばかりは、一瞬、何もかも忘れてしまっていた。


「モコ」こと中川桃子(なかがわ ももこ)は、市内のデパートで、エレベーターガールをしていると言った。

「毎日毎日『上へ参ります、下へ参ります』ばっか言ってるよ!」

ケラケラと甲高く笑う癖は、昔とちっとも変わらない。
「あーや」こと佐藤彩奈(さとう あやな)は、去年結婚して、姓が「高杉」になったと言い、今は隣の県に住んでいる。

「アタシ、時々こっちに帰るんだよ。また一緒に飲もうね!」

新婚さんだけどいいの⁈ と皆が心配しても、あーやはちっとも気にしない。

「いいの!アタシのダーリン優しいから!」

昔から自由奔放で、誰にでもアタックしていたあーや。開放的な所は今でも変わってない。

「花穂は?今何してんの⁈ 」

三人の視線が自分に集まる。

「え…と、私は…」

自分の話題になると困る。話しにくい事はさて置いて、事実だけを伝えた。

「今、コンビニでバイト中…」

「えっ⁉︎ コンビニでバイト?」
「仕事は⁉︎ 辞めたの⁉︎ 」

驚く三人の顔から目線を逸らして言い訳。

「うん…先月末で退職。ちょっと体壊しちゃって。今はもう…大分いいんだけど…」

予め、考えていた理由。三人は私の顔を見て、妙に納得してくれた。

「どうりでね。花穂、体型変わんないなって、思ってたんだ〜」

あーやが羨ましいって呟いた。
結婚して太ったと言う彼女の方が、私にとっては、何倍も羨ましいのに。
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