水平線の彼方に( 上 )
事故処理が済み、パトカーが去って行く。野次馬で集まっていた人達も、少しずつ解散し始めた。

「そろそろ帰るか…」

そう言ってノハラが立ち上がった。立てそうかとこっちを振り向く。

「うん…もう大丈夫と思う…」

ガードレールに掴まりながら、ゆっくりと立ち上がった。
フラつくのは相変わらずだけど、震えは収まっていた。

「花穂はタクシーで帰れよ。バイクはオレが押してってやる」

足元のおぼつかない様子を見て勝手に決め、走ってきたタクシーを止める。

「えっ…!いいよっ!私、歩いて帰れる…!」

焦って断った。タクシーのドアは既に開いている…。

「こんな時に無理すんな。バイクは無事届けてやるから、家の前で待ってろ」

身体を押し込み、ドアを閉めた。
強引なノハラに反論しにくいものを感じながら、タクシーはその場を走り去った。


「何か事故があったんですね」

ドライバーが私に話しかけてきた。

「ええ…乗用車とトラックが衝突して…」

さっき見た光景を思い出した。

「巻き込まれなくて良かったですね…下手すると命取りになる所だ」
「…ホント…そうですね…」

妙に納得しながら怒ったノハラの顔を思い浮かべていた。あの状況で一人だったら…と考えると、ゾッとするものがある…。

(ノハラが来てくれて良かった…)

素直にそう思った。強がっていたけど、心細くて仕方なかった。

(どうしてあんなに親切にしてくれるんだろう…)

単なる同級生の私を、あれこれ心配して気遣ってくれる。
何度も迷惑をかけているのに、嫌な顔一つせず、助けてくれる…。

(スピーチするのだって、何度も練習に付き合ってくれたり、今みたいに気を遣ってくれたり……もしかして…私のことが好き…とか…?)

考えて恥ずかしくなり、直ぐに打ち消した。

(昔の恩返しよね。きっと…)

中学の頃、散々宿題を見せてやっていた。きっとその時お礼の意味もあるに違いない。そう思った。
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