水平線の彼方に( 上 )
家に着くと、母が門前に立っていた。
タクシーから降りてきた私を見て驚いた顔をしている。

「まぁ花穂!バイクはどうしたの⁉︎ 」

「表通りで事故があって…巻き込まれそうになって転んだから…」
「壊れたの⁉︎ 怪我はない!?」

心配そうな顔をする。

「ううん…どこもどうもないんだけど、怖くて運転できそうになかったから、ノハラが……石坂君が押して来てくれる事になって、タクシーで帰らされたの…」

呆れ果てたような顔をしている。何度も迷惑をかけているノハラに一言謝りたいと言い出し、二人で彼が来るのを待った。

十分後位にノハラはバイクを押してやって来た。
母は恐縮して、何度もお礼とお詫びを繰り返した。

「大した事してませんから…」

ノハラはそう言うと、バイクのキーを私に返した。

「また明日な!」

笑みを浮かべて帰りだす。その背中にお礼を言った。

「ありがとう、ノハラ!…」

振り返り手を上げる。その姿に、同じように手を振り返した。

「いい人ね…」

背中を見送りながら母が呟いた。

「うん…ホントに…」

思い出しながら返事していた。ノハラには同窓会からこっち、ホントにお世話になりっ放しだった。

「早く片付けといで。明日早いんでしょ⁈ 」

母の言葉に頷いた。バイクのハンドルを握ると、まだ温もりが残っていた…。

(ノハラって、こんな感じの人だな…)

中学の頃の彼は、元気で明るいイメージでしかなかったけど、今の彼は、どこか心温まるものを持っているみたい。

(後でもう一度お礼言おう…)

そう思って、ハッとした。

(私…メアド知らない…)

散々練習を繰り返してきた仲なのに、一切連絡先を知らなかった。

「しまった…聞いとけば良かった…」

失敗したなと思いつつ、明日また聞けばいいかと考え直した。


(明日…頑張らないと…)

気楽に…と言っていたノハラの言葉を思い出した。
心の片隅で、彼がいれば大丈夫といったような、そんな心強さを感じていた……。
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