水平線の彼方に( 上 )
Act.9 理由
ーーー三十分後、私はバイクでノハラの家に向かっていた。

「何かあったと思うんです…。様子見に行っちゃいけませんか…?」

気になって仕方なくなり、佐野さんにお願いした。
あの表情と事故の話が重なり、どうにも処理できない気持ちだった。

「……いいよ。行っといで」

自分も心配だから…と、反対に頼まれた。

「ありがとうございます。後で連絡入れますから」

頭を深々と下げ、店を飛び出した。
焦るような気持ちでバイクを飛ばして家に着くと、軽トラの姿も確認せず温室へ向かった。

温室の様子は、外からは見えない。
一枚目の戸を開け、足を中に踏み入れてから気づいた。

(なんか暑っ…)

熱帯特有の熱っぽいものを感じて二枚目の戸を開けた。

「…うっ…何、この暑さ…どうしたの…⁈ 」

異様なまでの熱気に、思わず辺りを見た。

鉢に入った植物は、暑さのせいで萎れている。このままじゃいけないと、咄嗟に判断した。
扇風機の電源を入れ、風を送った。
回転する熱気に、こっちの方が具合悪くなりそう。
こんな中でノハラが仕事しているとは、到底考えられなかった。

「どこ行ったのよ!こんな状態にして…」

ハウスの戸を二枚とも開放し、外へ出た。
外の方が涼しいなんて、これまで経験しなかった。

(やっぱり変だ…!)

無我夢中で走り出していた。
黒瓦の家の玄関に立ち、初めてドアチャイムを鳴らした。


「はい…どなた?」

顔を出したのはおばあちゃんだった。慌てたようにやって来た私を見て驚いている。

「カホちゃん…どうしたの?」

ぽかんとしているおばあちゃんに向かって、叫ぶように聞いた。

「ノハラは…石坂君はいますか⁉︎ 」

焦る聞き方にますます唖然としながらも、おばあちゃんはマイペースに答えてくれた。

「真ちゃんなら入院中だよ。こないだ車を運転中、事故に遭ってしまったから…」
「…エエッ!」

まさかの様なホントの話。
おばあちゃんが言うには、事故に遭ったのは一週間程前で、居眠りしていた車にぶつかるまいと避けて、反対車線の電柱に衝突してしまったらしい。

(なんて間抜けな…)

日頃、人のことをあれ程信用していないのに、この有様なの…と、最初は呆れた。
でも、だったらあのハウスの世話は、一体誰がしているのか…。


「病院教えて下さい!どこに入院してるんですか⁈ 」


…会ってすぐに、いろいろ聞こうと思っていた。

聞かないと何もかも、収まりがつかない気がしていた。

事故のことも、失聴のことも、

何もかもーーー
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