水平線の彼方に( 上 )
「お店忙しかったから…疲れてるのかも……帰る」

お邪魔しましたと、他人行儀な挨拶。
戸口に手をかけ、開けようとした。

「花穂…」

名前を呼ばれ振り向いた。
タバコの香りが近づいて、えっ…と驚いた。

「ありがとな…」

ハグされた…。

大事なもの包み込むみたいに、優しく…。


急なことで、心臓が止まりそうなくらいだった。
顔の側に、彼の胸がある。
こんな間近に、男性を感じたのは久しぶりだった…。

ドキドキ鳴り出す心音。
それと同時に腕が解けて、戸を押し開けた。

走り出すように歩き、バイクにキーを差す。
全身の力が急に抜けて、その場にしゃがみ込んだ。

ボロボロ零れ落ちてくる涙、膝を抱え込んで泣き声を止めた……。


(ノハラのバカ…!もう…友達だって思えないじゃん…)


自分の気持ちが分かった。
いつの間にか、思っていた以上に、彼のことが好きになっている…。

(…こんな気持ち、持たくなかったのに…)

震える肩を両手で包んだ。
ノハラのタバコの残り香が、消えずに染み付いている…。

もう二度と、友人に戻れない…。


困惑と腹立たしい気持ちとが入り混じり、

いつまでも

切なくさせたーーーー…

< 79 / 92 >

この作品をシェア

pagetop