水平線の彼方に( 上 )
久しぶりに暖簾をくぐると、店長夫婦が喜んだ。

「久しぶり!」
「いらっしゃーい!」

親戚のおじさん、おばさんみたいな感じ。懐かしいなぁ。

「こんばんは。お久しぶりです」

気持ちが明るくなってくる。来て良かった。

「花穂ー、こっち!」

奥から手招き。

「砂緒里、もう来てたの⁈ 」

早い…しかも既に一杯やってる…。

「花穂に合わせてたら、あんまり飲めないからお先にやってた!」
「どうぞどうぞ。遠慮なく」

女同士飲むのも好き。いろんな話ができるから。


「その後どう?ノハラと」

ビールで乾杯の後、いきなり聞かれた。

「この間言ってた件、聞いたんでしょ?」

隠している事故の原因。
大事な人のことなら知りたいと言ったのは、砂緒里の方だった。

「聞いたよ…教えてくれた…」

人一人死んでるなんて話、簡単にはできないから話さないけど。

「そっか。そうじゃないかなって、思ってたんだ。この間ノハラが、病院の付き添い頼んで来た時から」

飲むと余計にお喋りになる砂緒里。鈴のようにクスクス笑った。

「あのノハラが、花穂にだけは頼み事するよね。昔から」

中学の時の宿題含め今も…だって。

「信頼されてるんだね」

グサッ…と胸に刺さる言葉。
これもノハラが単なる友達なら素直に喜べたんだけど…。

「どうしたの花穂?元気ないね」

しゅん…とする私を見て、首を傾げている。
親友に、何から話せばいいのか…。

「私…どうすればいいのか分からない事だらけで…」

いろんな気持ちが交錯して、優先順位が付けられない。困っているのに、解決策が見当たらない。

「とにかく話してみて。なんでもいいから…」

ビールジョッキを離し、両手を膝に置く。
態度から改める砂緒里に、少しずつ話すのは、この最近あったこと。

ノハラから事故の原因を聞いたから、自分の失恋話もした。
変に慰め合うこともせず、お互い話を聞いただけ。
それだけで、何かが繋がった気がして、安心できる間柄になれたのに…。

「ノハラが沖縄へ行くって聞いたら、自分一人取り残されているような気がしたの…。それで、何を思っているのか知りたくて、会いに行ったら…」

キュッ…

胸が鳴る。ドキドキしながら思い出す。あの感触…。

「ハグされて…お礼言われて…」

心臓が飛び出しそうな程驚いた。
逃げるように走りだして……そして…

「気づいた…?自分の気持ち…」

砂緒里の声に、うん…と頷く。

「ノハラが沖縄へいくのは、踏ん切りをつける為だって…。でも、私は思うように前へ進めなくて…。その方法も…思いつかなくて…」

前向きに生きているんだと、思い始めていたけど、実際は違っていたのかもしれない。
ノハラを好きだと気づいても、失う事の怖さが先立つようなら…。

「ノハラとはこれまで通り、友人関係でいた方がいいと思う…」

できる限りそうしたい。でも…

「無理だって、そんなの」

きっぱり否定された。

「できる訳ないでしょ。知らずにいればいい事を知ってしまったのに」

隠していた事故の詳細。元カレとの別れ…。
私達は、お互いを信じて話し合った…。

「二人とも、話せる相手はこの人しかいないって感じたから言ったんでしょ…。だったらもう前にすすまないと…」

宿題がきっかけで始まった、ケンカ友達。
何かにつけ言い合ってたけど、この人(ノハラ)なら許してくれると、妙な安心感が、そこにはあったーー

「変なふうに考えないことだよ。花穂が自分の気持ちに気づいたんなら、それを大切にすればいいだけの事。ノハラも同じ。だから行くんでしょ。辛いことがあった沖縄へ。過去に踏ん切りをつけて、生き直す為に…」
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