嘘恋



「あーでもベットはフカフカだからいんじゃね?」







ベットにあぐらをかいた成瀬があたしに手を差し伸べた。








「来てみ」








なんか…エロいぞ。


なんて、思いながら手を取ると


グイッと思いっきり引っ張られてベットにダイブ。







「…っんもぉ、なにすんのよ!」






「ははっ。どうよ?」







「うんうん、いいじゃん」







居心地良すぎて今にも寝てしまいそうだ。

目を閉じてふふーんっと鼻歌を歌っていると成瀬があたしの頭を撫でた。







「お風呂入っておいで」







その言葉にギョッと固まる。







まさか…そういうことする気なの?







成瀬を見上げるとニコッと微笑んできた。


な、なんだこいつ。








「入んないの?」






「え?や、は、入るけども」







そそくさと立ち上がりお風呂場を見た瞬間、今度はぞっとした。









薄いカーテンがかかっただけのバスタブはここから中がスケスケだ。






うそ…。







「あそこに入ろっての!?」






「あたりまえでしょ」







そんな笑顔で言われましてもね。



まぁ確かにあたしたちは何回かシたことはあるけど、それは昔の話で





もう5年も会ってなかったからけっこう恥ずかしい…。







「ていうか、普通のラブホってもっとこう…地味な感じじゃなかった?なんかここ変にピンクだらけだし…」






「こういう所の方が萌えるかなと思って少し奮発しちゃった。なんなら俺と入る?」







「は!?」







そっと、成瀬があたしの前まで歩いてきた。




「見られんの恥ずかしいなら俺も一緒に入っちゃえばいい話だねうん。」







「だっ…ばかじゃないの!?勝手に納得するな!」








あっかんべーをしてカーテンをシャッと閉めた。







中からでも、うっすらだけど成瀬が見える。







「ちょっと、早くあっち行ってよ」






「一緒に入りたかったなぁ」





そんな可愛い困り顔してもダメです。






「覗かないでよ?」







「覗かないよ。後で堂々と見るから」








そんなふざけたことを言って成瀬はベットの方へ歩いて行った。






ま、いっか。






さっさと脱いでバスタブに浸かる。







「はぁ…」







ほっと、ため息が漏れた。

温度も丁度いいし気持ちいい。








「気持ちいいかーい」






成瀬の声にビックリしてお湯がバチャンと揺れた。








「ま…まぁいい湯加減だよ!」








そうだ。スケスケなのをすっかり忘れていた。



「ふーん」っと返事が返ってきたと思ったらテレビの音が聞こえてきた。








改めて、肩まで浸かりそっと目を閉じる。







…明日また会えなくなるのに、こうして笑顔でいられるのは彼の性格のおかげだと思う。







悲しいままお別れなんてしたくないもんね。

どうせなら笑顔で、楽しい思い出を残してさよならしたいもんね。







あたしだって、同じ気持ちだけどさ。



霞む視界はきっとお風呂の湯気のせい。




ねぇやっぱり寂しいよ。


ねぇやだよ成瀬。






成瀬の前で泣き顔なんて絶対に見せないから、だから今のうちに少しだけ泣こう。







ブクブクっと顔を沈めてプハーッと顔を上げた。




カーテン越しにうっすら見える大好きな人。




成瀬の背中は大きくて頼り甲斐があって。
あたしはいつも彼に支えられてきた。



少し前を歩く彼の後ろ姿を隣でずっと見てきた。





…好きだよ。大好きだよ。









って、やだやだ。



覗かないでとか言ったくせにあたしが成瀬のことガン見してるじゃん。






バスタブから上がって髪の毛を洗い、体もゴシゴシと洗ったころには


かなりポカポカになっていて








「上がったよぉ〜」








「…おいおい、ゆでタコみたいに真っ赤だけど大丈夫か?」







「うん、大丈夫!成瀬も入ってきなよ。気持ちよかったよ?」







「うん。じゃ入ってくる」








そんな成瀬を見届けてあたしもベットに横になった。






シャワーの音がテレビの音と混ざって聞こえてくる。





き、きになる。





一瞬だけ、振り返ろう。
そしたらすぐ戻ればいい。





さっと振り返ると、うっすらと見える成瀬の背中。






…まぁ、悪くないかもねラブホ。
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