スセリの花冠
腕の中で暴れる女にそう言うと、ディアランは続けて語りかける。

「俺の名はディアラン。このティオリーン帝国の近衛兵一番隊隊長ディアランだ」

「んー!」

愛世は突然見知らぬ男に口を塞がれ、恐怖のあまり更に取り乱した。

「本当に大丈夫だから。心配ないよ」

「……っ……」

大丈夫……?本当……?

よく耳を澄ませば、口こそ塞がれて抱えられてはいるが男の声は低くて柔らかい。

それに……口調も優しい。

何だか拍子抜けし、愛世はピタリと動きを止めた。

ディ……アラン?

何かの隊長の……ディアラン……?

愛世は考えた。

ちょっと……落ち着こう。

とにかく、落ち着こう。

……そうだ。

そういえば私確か……。

確か私……須勢理姫に最初で最期のお願いをしたんだったわ。

で、須勢理姫が呪文を唱えて私は眠くなって……眼が覚めるとこの男の人に抱きかかえられていて……。

ということは……。

愛世はゆっくりと両目を閉じると数回深呼吸を繰り返した。

「……落ち着いたか?」

ディアランは腕の中の女が大人しくなり、ホッとして息をついた。
< 9 / 168 >

この作品をシェア

pagetop