私と執事
彼の部屋から酷い咳をする音が、静かな廊下に微かに聞こえる。
ノックをしてドアを開ける。
訪問者が私だと分かった彼が、億劫そうに身体を起こして諫める。
「寝てていい」
「………何故ここへ。女性が夜に男の部屋へ来るなんてはしたない行為だと分かりませんか」
───何がはしたない、よ。馬鹿。
「咳、酷いようだけど薬は飲んだの?」
「はい。殆ど効果はありませんけど」
雪が月光を反射して、部屋を蒼白く浮かばせる。
その中、彼は背を丸めて口許を押さえて咳をしてる。
辛そうで、私は彼の背中を擦る。
「熱は」
「………」
額に触れて………熱、あるじゃない。
「すぐ治りますから、お部屋へ戻って、」
「嘘つき。すぐって言ってて長引かせるくせに」
彼が目を閉じる。
「………すみません」

夜が、更ける。
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