私と執事

雨の秘密  梅雨

雨上がりの庭、紫の紫陽花に雨水が煌めく梅雨の頃。
私は花瓶に活ける紫陽花をとりに庭へ出る。空は曇天、また雨が降りそうだから急ごう。
「お嬢様、私がやりますから。お召し物が濡れてしまいますよ」
彼───執事も庭へ出て。
「いいの。それに濡れたくらい、すぐ乾くから。気にしないで」
彼は何も言わずに後ろにいて。
2本ほど枝を切る。
まだ咲かない蕾もあるから、暫く活けて開花を見よう。

他の花も見て歩く。
どれも雨水を花弁に乗せ、いつもより3割増しで綺麗。
ぽたっと肩に雨水が滴る。
これは、木からじゃない、空から降ったもの。
「雨が降り始めたようですよ」
「そうね。中に戻る?」
「はい」
一気に強まる雨。
雨水が服に染みて服が肌に密着して。
薄い生地で、何か透けるから少し恥ずかしくて。
「ほら」
彼が上着を私に被せる。「早く」
そして手を引かれて、ぬかるむ地面を蹴る。
転ばないようにしたって、ずるずる滑るからバランスを崩す。
「待って、早いっ」
「あ、」

ぐらっと傾いて、道端の深い茂みに身体が沈む。
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