私と執事

蝶の羽化  夏

夏本番を間近に控えた庭に、白い蝶が飛んでいる。
「ああ、昆虫博物館のようですね」
執事───彼が庭を見回して言う。
私は庭に置いたベンチで本を読んでいた。
彼に言われて、その蝶の多さに驚く。
確かに昆虫博物館のよう。
「昔の貴女なら、とってとってと強請ったものを」
「それいつの話よ」
彼がクツクツと笑って。
「すみません、随分成長なさったなと思いまして」
彼は指先に真っ白な蝶をとめる。
羽を休める蝶は、ぴたりと羽を閉じる。
「ご存じですか、蝶は羽を閉じてとまりますが、蛾は広げている、と」
「そうなの」
「例外もありますが」
ひら、と空へ上がる蝶。
花へとまり蜜を吸う。
あれは、美味しいのかな。
「毛虫が羽化すると、綺麗になるんだね。私、毛虫嫌いなのに」
彼がくすっと笑う。

「貴女も、随分羽化なさいましたね」
私が羽化?………それって、
「昔の私は嫌いなの?毛虫で」
「いいえ。昔も今も、好きですよ」
媚びる様子もなくさらっと言うから。
「貴女はまだまだ羽化しそうですね。嗚呼、脱皮でしたか」
羽化とか脱皮とか、蛇?
「貴女が羽化、脱皮するのを見るのも悪くないですね。まだ見ていてもいいですか?」
………。
怒りがうまれても、彼の笑みに全て消える。
「当たり前。執事が何を言うの」
彼は何も答えず、私の隣に腰をおろす。
蝶が、ふわふわと空を舞う。
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