コドモ以上、オトナ未満。
しばらくじっと見ていても絵の変化はわからず、そのうちに戻ってきたカナコの手には、小さなビンが握られていた。
「お待たせ。これ、魔法のインクのなの」
「……魔法?」
「うん。見てて?」
おもむろにビンのフタをあけて、美術室から一緒に持ってきたらしい小さな筆にちょんちょん、とつけたカナコ。
それをどうするのかと思ったら、壁画の方に歩いていったカナコが、なんとせっかく完成した絵の上で筆を走らせ始めた。
「ちょ! なにしてんの……!?」
「大丈夫だよ、ココちゃん。ほら」
振り向いたカナコが指差した場所は、何も変化していない。
どういうこと……? 今、たしかにそのインクで……
「これ、特殊な光にだけ反応して書いたものが見えるインクなの。今年の美術部は、これを使って描いた絵の展示をしてるんだ」
「……特殊な光?」
「そう。見に来る人には懐中電灯みたいなのを配って、それを当ててる時だけ絵が見える……けっこうおもしろいでしょ?」
「うん……でも、なんでそれを今ここに?」
にこっと微笑んだカナコが、あたしの手に筆を渡した。
その意味が分からず、ただ瞬きを繰り返すあたしに彼女は言う。
「ココちゃんの、ほんとの気持ち……これで、書いてみたらどうかなって」
ほんとの、気持ち……それは言うまでもなく、きっと真咲に対しての。
そんなこと書いて、今さら何が変わることもないだろうけど……
どうせ見えないのなら、ここに吐き出してもいい?
あたしから真咲に……今、いちばん言っておきたいこと。
「カナコ……インク、貸して」
あたしはそう言って筆をぎゅっと握りしめると、壁画の方へ一歩近づいた。