コドモ以上、オトナ未満。


今年の春に、真咲は北海道から戻ってきて、彼のお父さんが経営する病院に研修医として勤めているみたい。

だけどなんでか、ハッキリ“会おう”って言われないんだよね。

……あたしからも、自信がなくて、言えないけど。

だって、あたしはたぶん、再会したら泣いちゃうくらいにまだ真咲のことが好きだけど。

向こうがそうじゃなかったら……って思うと、悲しいから。


写真集の中に掲載されてるインタビューで、初恋のことを語るのにも勇気が要った。

でも、八年も自分の中だけにとどめておくのも苦しくて……思わず本音が出てしまったんだ。

……初恋継続中なのかも、だなんて。



「――そろそろ時間です」



握手会のスタッフが控室にやってくると、あたしは「ちょっと待って」とポケットからネックレスを取り出した。

それは、真咲と別れるときに彼がくれた大切なネックレス。

仕事柄、ずっと身に着けているわけにはいかないけど、こういう“頑張りたいとき”には、このネックレスを着けるのが定番なのだ。


「……人、集まったかな」


部屋を出る前に、大森の方を振り返って言った。


「そりゃもう大賑わいだろ。ココちゃん今やHoneyの看板モデルじゃん」

「……でも、今回はあたし個人の写真集だよ?」

「大丈夫だって。その目で見てきな、自分がどんだけ人気者なのか」


あたしは黙ってその言葉にうなずいて、ネックレスの鍵の部分を握りしめながら控室を出た。

自分のファンになってくれた人たちと、直に触れ合うのなんて初めてのことだけど。

どうか成功しますように……


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