コドモ以上、オトナ未満。
「……お前に信用されても気持ち悪りーんだよ。もうウザい、目障り、消えろ」
「だってさ、ココ。じゃあ消えよっか」
「うん……ありがとね、大森。あたしたち、スタッフさんたちに挨拶したら帰るから」
あたしが笑顔を向けると、大森は急にくるりと後ろを向き、片手を上げると“ばいばい”の動作をした。
……もう、いい加減呆れちゃったかな。
ずっとあたしを支えてくれた大森じゃなく、八年も離れてた相手を選ぶあたしのこと。
*
「――違うと思うよ? たぶん、賢人のやつショックだったんだ」
真咲のアパートへ向かう道の途中、あたしがそのことを真咲に聞いてみると、彼はそう言って苦笑した。
「だって、アイツはアイツなりにココのこと本気だったもん」
「……そうかな」
「うん。……でも、それ知ってても、譲ってやることなんてできないからさ、ココのことだけは、絶対」
右隣にいる真咲がそう言って微笑み、あたしの手を握る手にぎゅっと力を込めた。
……あたしはその瞬間から、急激に照れてしまう自分を感じてうつむいた。
さっきまでは、第三者がいたから平気だったけど。
真咲、高校生の時よりずっとカッコよくなってるし。
なんかオトナの男の人になってるし。
だけど笑顔にはあの頃の面影ももちろんあって、胸がぎゅうっとなる。
「……心矢」
あたしは、口の中だけで練習するみたいに、小さな声でそう呼んでみた。
特に意味があるわけじゃないし、聞こえてなくてもいいと思った。
ただ、なんだか想いが溢れて、名前を呼びたくなってしまったのだ。