コドモ以上、オトナ未満。


机の上に積み上げられた医学書。

椅子の背にかかったジャケット。

テーブルの上の飲みかけのコーヒー。


……ここへ来た時に見た景色と同じはずなのに、心矢と抱き合ったあとでは何か違って見える。



「……ココ、どこ見てんの」



あたしに腕枕をする彼が眠たそうな声で言って、あたしの髪を梳く。


「ううん……なんか、物思いにふけってただけ」

「なにそれ」

「あたし……心矢にいっぱい愛されて、大人になった気がするなって」


ちょっと黙ってから、「だってもう今年で25だし」と言う心矢に、「そういうことじゃなくて」と苦笑する。


そのまましばらく心矢の腕の中で幸せに浸っていたら、あたしのバッグの中で携帯が震えてるのに気が付いた。


「……誰だろ」

「仕事……にしてもこんな時間ってことはないか」


心夜の腕から抜け出してスマホを確認すると、それはお父さんからのメールだった。


「やば……遅くなるって言ってない」

「遅くなる? ……泊まるの間違いでしょ」

「……泊まる……お父さん、泣かないかな」


大人になったはずのあたしだけど、お父さんにとってはいつまでも子供。


あたしが高校生の頃、京香さんが言ってたことが、いまならよくわかる。

……彼女は、元気にしてるかな。


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