躊躇いと戸惑いの中で



「碓氷さんは、河野さんの車で戻ったんですよね……?」
「うん。電車を何度も乗り換えて、時間をかけて帰ってくるのもね。やらなきゃいけない仕事もたまってるし」

肩を竦める私を、乾君が寂しそうな眼差しで見ている。

「やっぱり、二人でいることが多いんですね」
「仕事上、しょうがないよね」

お互いに上の立場にいるから相談し易いのは事実で、年も同じだから話もしやすいんだ。

「河野さんとは、また飲みに行ったりするんですか?」
「うーん。そうだね。新店もオープンしたし、その祝賀会的な感じでいくかもね」
「二人で?」

そう訊ねる乾君は、何かと河野のことを話題にする。

“おもうところ”が一緒だと気づいた、なんていっていたけれど。
この二人の間には何があるんだろう。

しかも、私が河野といることに、乾君はやけに拘っているように思う。
私と河野が二人でいるのは、おかしいものなのかな。
けど、他に気を赦せるような仲間も居ないし。

「多分、二人になるかな。みんなで行けたら盛り上がるだろうけど、上司に誘われても美味しいお酒にはならないでしょ。これでも、一応後輩たちには、気を遣ってるのよ」

笑い話のように話してみても、乾君の表情はさっきから変わらない。
何を考えているのか読み取れないその表情を、探るようにして少しの間見ていた。

もしかしたら、そんな飲み会に誘われたら迷惑だし、よかった、なんて安心しているのかもしれない。
大丈夫よ、無理強いなんてしないから。


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