呪いの着メロ
『片目の少女』

 父親は有名なバイオリニスト、母親は有名なピアニスト。

 両方ともクラシック界では名を知らぬ者はいないほどの逸材だった。

 その女の子はそんな両親の血を受け継いで、幼いときから音楽の英才教育を受けさせられていた。でも、女の子は全然嫌じゃなかった。

 音楽が好きで堪らなかったからだ。

 英才教育のお陰で、五歳ですでに父親の発表会に出られるほどまでの腕前となった。

 中学生になった女の子はある日、一人の転校生と友達になる。

 その転校生は、自分で小説を書くほど本が好きだった。

 それまで音楽しか知らなかった女の子は、その転校生の書いた小説を読んでから本の世界にのめり込む様になった

 以来、女の子は音楽を習う時間の合間に本を読む時間が増えてきた。しかし、女の子の両親はそれを許さなかった。

「本なんか読んでいる暇があったら、譜面を読め!」

 それが父親の叱り方であり、手を出すこともあった。

 しかし、女の子は本を読むことを捨て切れなかった。中でも転校生が書いた小説が一番好きだった。

 そしていつかその小説をイメージした歌を作ってみたいと思うようになった。

 高校生になった女の子は両親が入学させたがっていた有名音楽学校の受験をわざと失敗し、転校生と同じ普通校に入学した。

 そしてある日のこと、女の子は両親に勇気を出して告白した。

「音楽も本も好き。だから、私、将来はシンガーソングライターを目指す」

 当然、両親は嘗てないほど猛反対した。度重なる暴力もエスカレートした。

 それでも、女の子は夢を諦め切れなかった。

 そして、自分の実力を世間に認めてもらえば、両親も許してくれると考えた女の子は父親の音楽関係者のコネを使って、内緒でレコード会社に自分が作詞作曲した歌を売り込もうとした。

 だが、曲が完成しても詞が出来上がらないまま、目論見が父親にバレてしまい、女の子はとうとう自分の世界から本を奪われてしまった。
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