雲屋

「え、なに、それ…」

「"雲屋領域規定"読んだろう?
雲屋にはあの船長さえ認めればなれるが、外界との縁は切れる。
家はおろか、地上に降りることすらままならねぇ。それでも、行くか?」

「あ…」


現実に引き戻された脳みそは、唯々、現実を見続ける。
街とおさらばするなんて考えてもいない。
だから、余計に迷う。しかし、


―フワ…


「あ、雲屋が…」

「悪い事はいわねぇ。アート、お前は家に帰れ。雲屋には俺が言っといてやる。」


夢が、去ろうとしていた。
現実の波に押し流される。それで良いのか。

それで、良いのか。アート。

硬く握った手のひらは汗ばんでいて。
この手は、雲を掴むように夢を手放すのか。
俺は俯いたまま、投屋に、


「…てくれ、」

「はっきり言え。アート。」


「俺を、雲屋まで、飛ばしてくれッ!!」


汗を飛ばし、叫んだ。
真っ直ぐと、投屋の目を見つめる。俺の夢を、あんたは運んでくれる。
そう、信じて。

投屋はほんの少し、アートの目を見ると、大型の木箱を取り出して来、


「乗れ。」


短く言った。
俺は何も言わずそれに従う。
荷物と共に箱に入り、蓋が閉められる瞬間、


"あぁ、
 これが最後の街の匂いか"


空に近い処はどんな匂いがするのだろう。
そうして、閉められた蓋の中、木の匂いだけが充満している。
目を閉じると、最後に投屋の声が聞こえた。



「無茶はするな。また、

 戻って来い。」



ドン、という激しい音と共に俺は空に旅立ち、
木箱の隙間から一通の手紙を落とした。


こうして、僕の、俺の果てしない旅が始まる。
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