駆け抜けた少女-番外編-


「にしても人気者が病人になるんも大変やな」


お粥を食べ終わり(おいしかった)苦い薬も
うげっと言いながらも飲んだ。


そして布団に寝ている私の額に濡れた手拭いを置いてくれて、布団も肩が隠れるまで上げてくれた。


なんかお母さんみたい。



「今日は出入り禁止やってお灸すえてくるか。やないと、また俺の目を盗んでやってくるやろ」

「ん…コホッ…私、大丈…ゴホッゴホッ」

「大丈夫やないから言うてんねや。医者の言う通りにせんと、悪化して辛いんはお前やで」

「……うん」



観察方としての顔、医者としての顔。


色んな顔を持った山崎さんは、相変わらず掴めない人だ。


だけどこの人のおかげで、どうやら今日はゆっくり出来そうだと安心して目を閉じた。














「さあて、廊下におる組長さん方聞いてはったよな?」

「「「「「…………びくっ」」」」」



────スーッ、トンっ。



「今日一日此処に近付いた人には、身体のあるとあらゆる筋肉を解してあげましょか。よーく効きますよって遠慮なさらず」


「「「「「ひょえぇぇぇぇ」」」」」





病人に下手に近付くことなかれ。


なんて、風邪が治った私に後に誰かが言った。






「山崎さん、皆に何したんですか?」


「……ん?別にぃ」



山崎さんがにやけていたのは見なかったことにしよう。

 




矢央が風邪をひいた場合 終





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